皆様 いつも大変お世話になっております。
相続税の納税資金として、自社株式を発行会社に買ってもらうケースは少なくありません。
事業の承継者以外が相続した場合など、会社の支配権維持の観点からも有効です。
さて、通常、株主からみた自己株式の税務上の取り扱いは「売却価額-資本金等の額」が配当所得
となり、最高55%の累進課税によって相当の税負担が生じます。
しかし、相続の日の翌日から3年10カ月以内に相続人が自社株式を発行会社に売却した場合は、
配当所得ではなく、譲渡所得として、約20%の税負担で課税関係が終了する特例を選択することが
可能です。
また、自社株式を相続したことによって負担した相続税を取得費として加算し、譲渡所得の税金を
安くする特例の併用も可能です。
・・・ここまではご存知の方も多いかと思いますが、見落としがちな点をご紹介します。
① 届出書が必要
この特例を使う相続人は、株式を売却する前に発行会社に届出書(以下URL参照)を提出しなければ
なりません。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/pdf2/1648_54-2801.pdf
また、その発行会社は株式を取得した日の翌年1月31日までに税務署に上記の届出書と合わせて一定の
書類を提出しなければなりません。
この届出書を失念するとアウトです。最悪の場合、20.315%⇒55%へ税率が跳ね上がります。
② 相続税がゼロの人は使えない
上記URLの届出書にも記載のあるとおり、「納付すべき相続税額が0円の場合」はこの特例の適用は
ありません。
例えば、配偶者の税額軽減(取得財産が1億6千万円もしくは法定相続分までは相続税が0円)により
相続税負担がなかった配偶者については、この制度は使えないということです。
③ 財源規制
発行会社は自己株式をいくらでも買い取れるというわけではなく、一定の範囲内に限られています。
これを財源規制といい、理由は、過度の会社財産の減少を防止し、債権者の保護を図るためです。
一定の範囲内とは、ほとんどの会社において決算書の純資産にある「その他資本剰余金」と
「その他利益剰余金」の合計額となります。
含み益のある資産があり株価は高いが欠損会社・・・は要注意ですね。
④ 買取価格はいくらにするか
あくまで税務上の適正価額ですが、
同族株主であれば所得税基本通達59-6
外部株主であれば配当還元価額もしくは簿価、でよいと考えます。
なお、外部株主が配当還元価額等で納得しない場合は、同族株主と同じ価額で交渉することが
相手に説明がつきやすく一般的かと思います。
⑤ 買取後の既存株主の株価
自己株式の買取は「発行済株式数の減少」になり、一株当たりの株価が跳ね上がる可能性があります。
実行の際は、承継者の年齢や健康状態、将来の方向性(事業承継、M&A)の検討が必要です。
自社株対策をご検討の方はどうぞご相談ください。